テクノロジーを活用して、より幸せで健康的な職場をつくる方法

ここ数年のあいだにビジネスブログや企業ニュースレター、決算報告書を読んだことがあるなら、新型コロナウィルスパンデミックの影響についての、使い古されたような表現に出会ったことがあるでしょう。しかし、この世界的な出来事がビジネスに与えた影響は、いくら強調してもしすぎることはありません — 働き方そのものについてのコミュニケーションの方法さえも変えてしまったのです。「デジタル化」「リモートワーク」「テレコム」など、すでにビジネス用語として定着していた言葉が、さらに頻繁に登場するようになりました。

そして、それは単なるスローガンでは終わりませんでした。リモートワークが広がり、業務を止めずに回し続けるため、企業はその場で考えながら急速にデジタル化や自動化を進めていくことを迫られました。早い段階で対応を始めていた企業、あるいはすでにデジタルや自動化技術に着手していた企業は、後から追随せざるを得なかった企業や、取り返しのつかない遅れを取った企業よりも、はるかに有利に状況を乗り越えることができました。

しかしこれまで、社内の議論はパンデミックが生産性に与えた影響にばかり焦点が当たり、働き方の変化が従業員の生活全体にどのような影響を与えたのかについては、深く議論されてこなかったケースが多く見られます。

パンデミックによって従業員のバーンアウト(燃え尽き症候群)や離職の問題が大きく取り上げられるようになったことは驚くべきことではありませんが、この懸念自体は 決して新しいものではありません。従業員を健康で満足した状態に保つための適切なツールがなければ、燃え尽き症候群は日々の業務の中に静かに忍び込みます。世界保健機関(WHO)は、燃え尽き症候群が疲労感、仕事への否定的な感情、生産性が低下しているという感覚を引き起こすと指摘しています。

この最後の点は、あらゆる企業の人事(HR)部門やカルチャー担当者にとって特に注目すべき課題です。パンデミックによるストレスの影響で、従業員が書類の提出や支払い処理といった、通常であれば簡単にこなせる業務でさえ難しく感じる場面が増えていました。

リモートワーク環境への準備が不十分だった企業の中には、従業員に「今までの基準を満たせていない」と感じさせてしまったケースもあります。不連続な働き方、新型ころなウィルスによる追加ストレスが重なり、従業員は同じ成果を出すために、これまで以上に努力せざるを得なかったのです。

このような働き方の課題を不可避のものとして受け入れるのではなく、さまざまな業界の人事チームには、従業員の日々の働き方を大きく改善できる機会があります。長年放置されてきた人事システムの欠点は、新型コロナ以前から存在していましたが、この問題の表面化が急速に進んだことで、多くの組織は職場文化の改善に取り組まざるを得なくなりました。改善しなければ、離職の大きなリスクに直面することになります。  

大きな機会となるのは、企業が未来志向の革新的なテクノロジーを積極的に取り入れ、従業員がより健康で幸せに働ける環境づくりを進めることです。従来の働き方と、これからの働き方のギャップをスムーズに埋める方法を見つけることで、コロナ後の時代において従業員により良い環境を提供できるようになります。

より効果的で前向きな従業員が増えることで、組織は効率的な働き方を育み、優秀な人材の長期定着と収益性の向上を同時に実現できます。Great Place to Workの調査によると、働きがいのある職場は、平均して売上成長が3倍、株価パフォーマンスが3倍、離職率が50%低下することが示されています。

本ホワイトペーパーでは、従業員を支援し、つなぎ、パンデミックから得た教訓を活かし、そして何よりも将来の持続的な成功に向けて、最適なテクノロジーを見極めて導入するために、企業が取りうる具体的なステップを掘り下げていきます。本レポートを読み終える頃には、これまで十分に活用されてこなかった従業員の強みを引き出し、組織を変革へ導くツールを活かすための明確な道筋が見えてくるはずです。このホワイトペーパーのPDF版もダウンロードしていただけます。

人事部門に広がる次の可能性

人事チームは、つながりのある企業文化を築く鍵を握っています。人事リソースやテクノロジーへの投資により、従業員のウェルビーイングを支える体制を確かなものにできます。

まずは、将来を見据えた組織づくりのために、俊敏でデジタル化された人事向けのプラットフォームが不可欠です。McKinsey statedが 2021年3月の人事レポートで述べているように、「変革を成功させるには、組織のあらゆる側面、人材、プロセス、戦略、構造、テクノロジーに影響を及ぼす必要がある」のです。人事チームは、従業員の成長とパフォーマンス管理に焦点を当てた人材中心のプロセスを導入することで、この変革を主導できます。これにより、従業員は体系立てられた形で新たな挑戦に取り組めるようになります。

データ収集を適切に活用する

新型ころなウィルスのパンデミック期間中、企業は「従業員がいつ・どのようにオフィス外で働くのか」を早急に理解し、対応する必要がありました。2019年のGartnerの報告にもあるように、企業はリモートワーク以前から存在していた従業員モニタリングツールを活用するようになりました。企業は、アンケートによる従業員本人からの直接的なフィードバックなどのデータ収集方法と、透明性のあるモニタリングツールを組み合わせようとしましたが、従業員側の受け止め方には賛否が混在していました。

従業員に関するデータ収集の増加自体はパンデミック以前から見られましたが、この2年間で急速に加速しました。Gartnerが2021 年に発表したレポートでは、雇用主の 16% が従業員をさまざまな形でモニタリングするテクノロジーの利用を増やしていることが示されています。生産性を追跡するものもあれば、エンゲージメントや健康状態を把握するものもあります。

しかし、この種のデータは生産性を測定するためだけでなく、従業員にとってより良い企業文化を築くためにも同じくらい重要です。そのため人事チームは、リモートワークの従業員に関するデータ収集について、「罰的に扱うもの」ではなく、「働き方をより効果的にするための有益な情報源」として捉え直す必要があります。こうしたデータが、新しい働き方をどのように最適化できるのかを示す洞察を提供することを強調することが重要です。

では、どのようにしてデータ収集を適切に活用できるのでしょうか。最も効果的な方法は、透明性・コミュニケーション・従業員を第一に考える姿勢を基盤にすることです。

まず、人事(HR)チームがどのような姿勢で情報収集に取り組むのか、収集したデータをどのように評価し、従業員と企業全体の利益のためにどう活用するのか、さらに収集対象となるデータの種類について、明確な倫理規範と行動指針を策定しましょう。加えて、データ収集には明確な目的があることを従業員にしっかり伝えることが欠かせません。この取り組みの目的が、利益追求のためだけではなく、職場環境を改善し従業員にとってより良い環境をつくることにあるという点を、はっきりと説明する必要があります。

そのため、従業員の幸福度やパフォーマンスを正確に把握するには、健康・安全性・業務効率といった側面から評価することが重要です。これらのデータは相互に関連していることが多く、たとえば、テクノロジーの不備や使いにくいインターフェースが原因で特定の作業に時間がかかると、従業員は業務を終わらせるために余計な負担を背負い、(精神的・身体的な)健康を犠牲にしてしまうことがあります。 その結果、何が起きるでしょうか?それは、しばしば問題として取り上げられる、あの「燃え尽き症候群」です。

柔軟性の提供

ここ数年でリモートワークは大きな人気を得ており、パンデミックによって従業員は上司と柔軟な働き方を交渉しやすくなりました。当初は、リモート環境での対面コミュニケーションの不足が、オフィスでの社会的なつながりや業務効率を損なうように感じられることもあります。しかし実際には、従業員の私生活に踏み込みすぎることなく、必要不可欠な交流やインタラクションを実現する方法は存在します。

デジタルファーストのシステムは、新しい働き方を支えるための手段として役立つだけではありません。従業員がワークライフバランスをより主体的にコントロールし、自身の職務記述を超えた貢献の可能性を広げる機会も提供します。管理しやすいワークフローを自動生成するツールは、単調で時間のかかる作業を排除し、従業員がクリティカルシンキングや問題解決、高度な責任を伴う業務に集中できるよう支援します。

この新たな領域は、リモートワークの拡大によって業務のデジタル化が急速に進んだことで実現しました。人事チームがデジタルツールや自動化の導入を積極的に進めれば進めるほど、従業員は自分の時間をより適切に管理できるようになります。 このアプローチは、役割よりもスキルに重きを置く働き方を促し、探求を歓迎する文化を育むことで、従業員全体の幸福度向上につながります。

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適切なテクノロジーを活用したデータ収集

信頼を築き、より扱いやすい人事管理システムを整備する必要性に加えて、データ収集のために使うツール自体が効果的であることも重要です。つまり、従業員にとって手続きが簡単になり、業務をさらに複雑にしたり、手作業への依存を増やしたりしないプラットフォームを導入する必要があります。

これまでのところ、最も効果的であることが示されているのはクラウドテクノロジーです。従業員の迅速な参加を促せるだけでなく、最も正確なパフォーマンス指標や成功指標を得られる点でも優れています。この種のソフトウェアは、エンゲージメントの追跡と同時に、リアルタイムでパフォーマンス状況を更新できるデータへの最大限のアクセスを提供します。

PwCが実施した人事テクノロジーに関する調査によると、システムをクラウド化したことで、91%の回答者が「従業員による人事アプリの利用が増えた」と報告しています。さらに89%が、クラウドベースのシステムによって「人事の管理性が向上した」と回答しています。

人事が新型コロナウィルスから学んだこと

多くの企業は長年、人手不足を何とか補いながら運営してきましたが、新型コロナウィルスの時代はその現実に正面から向き合う契機となり、取り組むべき課題をさらに浮き彫りにしました。人事への投資不足は企業全体に影響を及ぼす問題を引き起こす可能性があり、特に、コロナ以降一般化したデジタルワークプレイスに対応するための適切なツールが整っていない場合、その影響は一層深刻になります。

HR Magazineの2021年のレポートによると、調査対象となった 人事の専門家のほぼ全員(正確には 95.1%)が、2020年3月以降、業務量が増加したと感じていることが明らかになりました。これは驚くべきことではなく、多くの部門が同じように感じていたかもしれませんが、それでも新型コロナウィルス以降の人事部門がどれほど大きな負荷を受けてきたかを示す衝撃的な数字です。

パンデミックを通じて、すでに高度な人事システムを備えていた企業は、従業員支援のあり方が急速に変化する状況にも、より柔軟に対応することができました。こうした成功事例から得られる教訓は、新しい働き方の時代において、人事のベストプラクティスをどのように実践すべきかを示す重要な示唆となります。

過小評価されがちな部門の採用強化

パンデミックが落ち着くにつれて多くの従業員が離職したりキャリアチェンジをしたりする「大量離職(Great Resignation)」の動きは、あらゆる業界や職種に急速に広がりました。しかし、この大きな文化的転換の影響を特に強く受けたのが人事部門です。この状況により、採用チームには、単に人員の空白を埋めるだけでなく、他部署の従業員も含め、安定的で効果的な人事チームを構築し、自社の人材を維持できる体制を整えるという、過度なプレッシャーがかかるようになりました。

求人動向の変化を分析したIndeedの調査によると、パンデミック前と比べて求人件数が全体で30.5%増加した一方、人事部関連の求人に限るとその数字は46.9%に跳ね上がりました。企業が従業員定着のために人事部に大きく依存しているにもかかわらず、人事チーム自身が最もストレスを抱え、離職しやすい職種のひとつであることが明らかになっています。

そのため、多くの企業がこの不安定な離職時期に優秀な人事部の人材を惹きつけるべく、採用条件を魅力的にする動きを見せています。リサーチ会社EquilarによるHR エグゼクティブの報酬動向レポートでは、Fortune 500 企業の人事部の幹部の53% が、新しい人材にサインオンボーナスを提供したと回答しています。データが示すとおり、新規採用への手厚い待遇は十分に正当化されますし、優秀な人材を確保するための競争は、長期的な企業の成功を見据えて戦略的に人事部を強化しようとする企業にとって、大きな成果につながるはずです。

<strong>Competition for the best and brightest talent is heating up</strong> 53% of HR executives from Fortune 500 companies offered signing bonuses to new talent.

優秀な人材の獲得競争はますます激化しています。Fortune 500 企業の人事責任者の53%が、新たな人材を採用する際にサインオンボーナスを提供していると回答しています。

従業員の安全を守る最前線

「人事(HR)」という言葉から、多くの人が思い浮かべるのは日々の業務の一部だと思います。たとえば、医療保険や401(k)についての質問に答えるといった、少し面倒に感じられる業務かもしれません。しかし新型コロナは、人事が職場で従業員を守り、より複雑な環境を乗り越える手助けをする重要な役割を担っていることを示しました。

多くの業界がパンデミック後にリモートワークを広く取り入れ始めた一方、製造業、工業作業、商取引、サプライチェーンの現場など、対面での勤務がどうしても必要な職種もありました。こうした現場の従業員は、日々の業務の中で新型コロナに感染するリスクが最も高かったのです。その結果、人事チームは従業員の安全を確保するために重要な役割を果たさなければなりませんでした。これは、下記のようなOSHA(米国労働安全衛生局) の変化するガイドラインに厳格に従うことを含みます。

人事チームは従業員データや医療情報を保護する責任も担っていました。これらのチームは、米国保健福祉省(HHS)米国雇用機会均等委員会(EEOC)が定めるワクチン関連の規制を、HIPAAプライバシー保護と併せて順守する方法を学ぶ必要がありました。

これらの例に共通するように、人事部門は従業員を支援し、守るという重要で目立つ役割を果たしました。適切に実行されたとき、これらの取り組みは従業員が安心して職場に来られるようにし、仕事を効果的にこなせる環境を整え、組織への信頼にもつながりました。

人事管理の次の時代

コロナ時代の職場で繰り返し見られるテーマは、変革をもたらすデジタル技術の活用です。人事(HR)管理は、企業が投資し改善すべき重要な領域ですが、往々にして不必要な官僚主義に足を引っ張られ、新しいシステムの導入が難しくなることもあります。ここでの目的は、こうした技術を「どのように」「なぜ」活用すべきかを明らかにし、従業員の体験価値を向上させ、ひいては仕事全体の質を高めることです。

医療のように、人との関わりを中心とした類似分野では、パンデミック期を中心に、人工知能(AI)や自動化といったデジタル手法がうまく活用されてきました。 テクノロジーは、サービスの質を損なうことなく、従業員が新型コロナのような健康危機を乗り越える手助けをしてくれます。これまで人事の担当者が介入しなければならなかった場面でも、自動化されたオペレーションがその役割を補完できるようになるのです。

人事管理も、テクノロジーによって成長する同じ機会を持っています。Grant Thorntonの調査・報告によると、人事部門の上級責任者の40% が、今後12か月の最優先目標として、技術革新(テクノロジーの変革)を挙げているとのことです。他の分野がデータ分析によって恩恵を受けてきたのと同じように、HR もこうしたインサイトをより深く理解し、情報を活用してワークフローの改善や管理をより効果的に行う必要があります。

特に、人事部門のリーダーは、次のような特徴を備えたプラットフォームを選ぶべきです。

  • 社員が簡単に導入し利用できることが重要です。理想的には、関係者全員がローコードまたはノーコードで扱えることが望まれます。
  • シングルサインオン(SSO)などのツールを活用し、安全なユーザー認証を実現します。同時に、GDPRやHIPAAをはじめとした国内外の規制に準拠することができます。
  • オンボーディングにおいて一貫性のある有益なサポートを提供し、人事チームのデジタル化推進を支援します。
  • 社内の人事プロセスをさらに革新し、現代の従業員が求める柔軟性と自由度を実現するための選択肢を広げます。

ヘルス&ウェルネスプログラムを強化する

人事の重要な役割のひとつとして広く知られているのが、社員の健康・ウェルネスプログラムの選定と育成です。特に新しい企業や成長段階にある企業では、これらの取り組みが、企業文化が明るく前向きであることを示すシグナルとして活用されることもあります(少なくとも表面的には)。

グループヨガや無料のヘルシーランチなど、従業員を重視した福利厚生は、若手人材を採用したい新興テック企業の求人でよく目にします。しかし、残念ながら、こうした取り組みだけでは、従業員が本当に健康でウェルビーイングを感じられる状態には十分とは言えません。

新型コロナウィルスによって、適切に運用すればヘルス&ウェルネスプログラムが人材マネジメントに大きな可能性をもたらすことが明らかになりました。テクノロジーを活用し、日々の業務をよりスムーズにし、ワークライフバランスを改善し、従業員の長期的な健康を支援することで、真に効果的な人事施策を体現する統合的な仕組みを構築できます。

従業員の健康とウェルネスの現状

健康とウェルネスへの最適な取り組み方を理解するために、企業はまず現在の施策を透明性のある方法で評価し、従業員のウェルビーイングのどの側面が見落とされているのかを把握する必要があります。同様に重要なのが、燃え尽き症候群や疲労、雇用不安感といった問題を引き起こす根本要因を特定することです。これらの指標はいずれもパンデミック期間中に大幅な増加が報告されています。

ワークライフバランスの欠如は、健康悪化の主要な要因です。WHO(世界保健機関)がバーンアウトを純粋な職業性の現象として位置づけていることは、仕事の時間と自由時間の区別が失われていることが問題の一因であることを示唆しています。リモートワークはオフィスや通勤といった物理的な境界を取り除いたことで、個人と仕事の領域の境界が曖昧になり、その分離を維持することが難しくなりました。

人事課のリーダーたちはこれらの課題を認識しており、解決に向けて取り組む姿勢を明確に示しています ― それは企業としても同様に取り組むべき姿勢です。Grant Thorntonの2021年調査によれば、人事部のリーダーは来年に向けた健康とウェルネスの優先課題として、ワークライフバランスの改善やメンタルヘルス全般への対応を挙げています。
A 2021 Grant Thornton survey of HR leaders identified mental health and work-life balance as priorities for the coming year.

Grant Thorntonが2021年に実施した人事部のリーダー調査では、来年の優先事項としてメンタルヘルスとワークライフバランスが挙げられました。

職場における不安の多くは、管理職の不適切なマネジメントに起因すると考えられがちで、ある程度は正しいと言えます。しかし問題はそれ以上に深く、企業や特に人事チームの機能そのもの、そして効果的なコミュニケーションのためにテクノロジーをどれだけ活用できているかにも関わっています。

WHO(世界保健機関)は、不十分な方針や、コミュニケーション不足・管理手法の問題が、職場における大きな不安要因になっていると指摘しています。これに対処するには、企業は、職場の方針や手順にオンラインで簡単にアクセスできるようにするテクノロジーを迅速かつ効果的に導入する必要があります。さらに、新しい運用ルールや計画、ツールが導入される際に、従業員へ確実に情報が行き渡るよう、自動化ツールを活用することも求められます。

従業員同士のつながりと協働

「ヘルス&ウェルネス」という言葉の中では、どうしてもヘルス(健康)のほうが注目されがちですが、ウェルネスも同じくらい重要で、人事のマネジメントでは数値化しにくい側面でもあります。ウェルネスは、働くうえでの総合的な体験や、従業員が長く働き続けられるような前向きで柔軟な環境づくりといった、目に見えにくい要素と深く関わっています。

ウェルネスを重視した職場を実現するためには、企業が「文化的結束」を育むことが欠かせません。これは少し大げさな言い方をすれば、従業員同士が一貫して健全につながり、交流できる状態を指します。あらゆる組織と同様に、企業にも従業員同士の社会的サポートや協働を促す力があり、ある意味ではそれを後押しする責任もあります。

リモートワーク時代のいま、こうした施策はさらに重要性を増しています。2021年のUpworkの調査によると、リモートワーカーの多くが職場での社会的つながりを強く求めており、オフィスが正式に再開する前から、代替的なハイブリッド勤務の導入を望む声も上がっていました。

人事部門にとって重要なのは、従業員同士に「無理に交流させること」ではなく、自然に交流が生まれるようにすることです。従業員が過度な負担や過剰な監督を感じない文化を作り出せば、他部署との間で、仕事に関する明確なコミュニケーションだけでなく、社会的な交流も自由に行えるようになります。Journal of Management and Organizationは、その第一歩として、組織文化に関する独自のデジタルハンドブックを作成し、それを従業員に提供することを推奨しています。 これは、組織として「コミュニティとしての支え合い」を重視していることを明確に示す、透明性の高いアプローチになります。

社内での交流機会をつくる方法を検討する際は、バーチャル飲み会のような従来型のオンライン施策にとらわれすぎないことが大切です。その代わりに、既存のイントラネットを置き換え、従業員同士をつなぎ支援するモバイル対応のオンラインポータルなど、新たなテクノロジーの活用を検討すべきでしょう。また、従業員がリーダーシップ層の目を気にせず自由に交流・意見交換できるよう、社内専用のプライベートアプリを導入することも一つの案です。

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ヘルス&ウェルネスへの取り組みを変革するテクノロジー

ヘルス&ウェルネス業界そのものも、いま大きな成長期を迎えています。アプリ、サービス、製品などを含む市場規模は1.5 兆USドルを超えており、その勢いはとどまるところを知りません。言うまでもなく、企業が従業員向けのツールを選ぶ際には、非常に多くの選択肢が存在します。

EYが実施した、ポスト新型コロナの職場環境におけるメンタルヘルス対策に関する調査では、職場の健康とウェルネスを向上させるための幅広いソリューションが特定されました。マインドフルネスアプリ、セラピーチャットボット、遠隔医療サービスなどは、テクノロジーを活用した支援方法として、リモートワークにも対面勤務にも無理なく適応できます。さらに、フィードバック機能などの専用ツールを利用することで、雇用主と従業員のコミュニケーションが密になり、個別の懸念に耳を傾け、対応するプロセスの効率化が可能になります。

では、これらのソリューションの中で最も適した選択肢とは何でしょうか。同じレポートの中でEYは、ポストコロナ時代に本当の意味でウェルビーイングを実現するための鍵は、従業員の「レジリエンス(回復力)」を高めることにあると強調しています。従業員自身だけでなく、同僚や家族を支えられるような福利厚生やツールを提供し、メンタルヘルスに前向きに取り組める職場文化を醸成することが不可欠だ、というわけです。

ポスト新型コロナ時代の本質的なウェルビーイングを実現する鍵は、従業員一人ひとりの「レジリエンス(回復力)」を高めることにあります。従業員が自分自身はもちろん、同僚や家族も支えられるよう、適切な福利厚生やサポートツールを整備し、メンタルヘルスに対して前向きに向き合える職場づくりを進めていくことが重要です。

こうした課題に先手を打ち、包括的に対処するためには、人事チームはテクノロジーを従業員の長期的なニーズに焦点を当てて活用し、アンケートやコミュニケーションツールを通じて継続的に状況を把握することが重要です。さらに、同じテクノロジーを用いて、キャンペーン期間、製品ローンチ、ホリデーセールなど、ビジネスの負荷が高まる時期に合わせた従業員へのフォローアップを計画的に実施することもできます。

人事のプロセスを効率化することも、従業員の健康とウェルネスを支えるうえで欠かせません。企業は、こうした内部課題に効果的に取り組むための基本的なオンラインツールを利用できます。適切なプラットフォームであれば、必要な基本機能に加えて、重要なタスクをこなすための高度な機能も備わっています。アンケートによる情報収集や、ウェルネスプログラムへの参加登録などのプロセスを、ノーコードフォームで自動化することで、従業員の体験を大きく改善できます。

人事向けの専門的なデジタルツール(アプリ作成ツールテンプレートなど)は、健康増進プログラムに関するあらゆる情報をまとめ、迅速かつ簡単にアクセスできるようにします。また、別のツールでは自動化を活用して人事フォームを効率化し、それらのドキュメントをワークフロー化することで、一貫性があり再現性の高いプロセスを実現できます。さらに、こうしたツールによって得られる、満足度の高い従業員に関する大量の情報を扱うためには、データを集約し、アクセスしやすい形式にまとめ、重要な従業員情報を素早く確認できるレポートを生成する仕組みも必要です。

サービスの効率化による生産性と職務満足度の向上

従業員が「生産性を発揮できていない」と感じると、仕事全体への不満が高まり、結果として他の機会を探し始めます(これが、大量離職(Great Resignation)の主な要因のひとつです)。一方で、生産性を高めるツールへの投資や人事部サービスの効率化を進めると、従業員の満足度が向上し、仕事への充実感も高まります。その結果、組織にも良い成果がもたらされるのです。

多くの人事部門は、業務効率を高め、従業員をより効果的に支援することに苦戦してきました。その解決策は、利用可能なテクノロジーだけでなく、人事部門が従業員にどのように貢献できるかという役割定義にも左右されます。これら双方のベストプラクティスを組み合わせることで、組織は従業員の健康・ウェルネスに関する人事部のニーズを満たせるだけでなく、従業員全体の仕事の質そのものを向上させることができます。

従業員体験を向上させるための人事部のデジタル化

古い人事部のシステムは、時代遅れの手法に縛られがちで、その影響は従業員一人ひとりにまで及び、ストレスや非効率を生み出します。従業員体験を改善し、自分の人事部門から十分なサポートを受けられていないと感じる人々の懸念に応えるためにも、企業は HR のデジタル化に大きく投資する必要があります。

こうした懸念は、今に始まったことではありません:

2020年のGartner レポート(複数業界の人事部のリーダーからの調査に基づく)によれば、従業員の77%が「日常的な業務をより簡単に完了できる方法」を求め、69%が「自分のニーズを先回りしてくれる、より賢いシステム」を期待していることが明らかになっています。
<span>77% of employees</span> expect easier options for completing routine tasks.

従業員の77%が、日常的な業務をより簡単に完了できる方法を求めています。

<span>69% of employees</span> expect more intelligent systems that anticipate their needs.

従業員の69%が、自分のニーズを先回りしてくれる、よりスマートなシステムを期待しています。

同様に、リーダーの 73% が「新しい人事テクノロジーの導入により、人事部門はより良い従業員体験を提供できるようになる」と回答しています。

さらに重要なのは、プロセスの効率化はテクノロジーだけでなく、アプローチそのものの見直しでもあるという点です。その意味で、同じGartnerのレポートは、従業員を 「オンデマンド型人事サービスの消費者」と捉える、革新的で従業員ファーストの人事アプローチを指摘しています。

一見すると、こうした仕組みは人事部と従業員の間に追加の障壁や距離を生むように思えるかもしれません。しかし、正しく運用されれば、むしろはるかに優れた最終的な成果につながります。人事担当者は、より高度なテクノロジーを活用することで、繰り返し発生する従業員の課題に集中できるようになり、従業員は自分たちの問題解決を可能な限り効率的に支援する働き方の恩恵を受けられるようになります。

自社に最適なプラットフォームを見つけることが重要です。従業員の働き方に具体的な改善をもたらすためには、人事の業務の効率化や日常業務の管理をスムーズにするための多様なツールにアクセスできる環境が必要になります。

シングルサインオン(SSO)統合のような重要なツール — 複数の ID プロバイダーで同時認証できるMulti SSOを含む — は、HR(人事)関連リソースへのアクセスを大幅に簡素化します。さらに、Jotformが提供する使いやすいフォーム、PDF、電子サインドキュメントと組み合わせることで、企業は人事のあらゆる体験を効率化し、従業員が必要なリソースに安全かつスムーズにアクセスできる環境を実現できます。

さらに有用なのが、人事部の業務に特化したタスクを簡素化する自動化ワークフローです。これにより、人事チームはわずか数回のキー入力だけでリクエストへの対応や更新を行えるようになります。包括的なツール群を効果的に活用することで、人事部は「避けて通れない義務」ではなく、従業員がキャリアを通じて頼れる「支援とガイダンスを提供する存在」へと変わっていきます。

ヒューマンキャピタルマネジメントの活用

より高度なHR機能を備え、体系的なアプローチを導入したい企業にとっては、HCM(ヒューマンキャピタルマネジメント)の検討が有効です。HCM システム は、人事業務における明確な実践体系として定義されており、以下の 3 つの主要分野で特定の能力を提供します。

  • 人材獲得
  • ワークフォース管理 
  • ワークフォース最適化

従来の人事管理ツールやプラットフォームの枠を超えて、HC は従業員の目標設定やパフォーマンスの方向性、そして最終的には長期的な定着とウェルビーイングを左右する、より戦略的な役割を担います。

GartnerのアナリストであるHelen Poitevin氏は、HCM(人的資本管理)を導入することで、これらのシステムは組織における多様性とインクルージョンの向上に加え、従業員エンゲージメント、すなわち「従業員が自分の組織からどれだけ支援されていると感じているか」という度合いを高めるのに役立つと述べています。

長期的には、HCMの目的は、従業員を企業の重要な「人的資源」として最大限に活かし、強みを伸ばし、プロフェッショナルとして輝ける環境を整えることにあります。その最終的なゴールは、エンゲージメントを高め、事業価値を押し上げることです。さらに高いレベルでは、HCMは組織全体の力を引き上げ、従業員を高いパフォーマンスと収益創出を実現する「原動力」へと進化させることを可能にします。

テクノロジーで長期的な組織文化を改善する

これまで人事部の管理におけるテクノロジーの役割について多く触れてきました。 とくに、ポータルやフォーム、ツールなど、従業員にとって欠かせない各種リソースへのアクセスを容易にする仕組みについては重要なポイントです。しかし、こうした基本的ながら大きな変革をもたらす取り組みを超えて、企業にはさらに大きなチャンスがあります。とりわけリモートワーク時代の今、職場でのテクノロジーの活用を「現状の使い方」にとどめず、これらのツールを使って企業文化をどう進化させ、将来にわたって強化していくかを考える機会が広がっているのです。

こうした大きな問いに向き合うのは、少し怖く感じられるかもしれません。というのも、収益や長期的な成長につながることを期待して、事業のさまざまな領域に投資する必要があるように見えるからです。しかし、多くのコンサルティング会社や大企業、各分野の専門家が推奨する変革は、複数の業界や社内部門に幅広く適用できるものです。人事部においては、これらのソリューションをどのように取り入れ、利益重視ではなく従業員重視の目的で考えるか、その視点にこそ違いがあります。

新しい働き方の時代

2020年3月の新型コロナのロックダウン以降、経営者から一般従業員に至るまで、出社再開の最適なタイミングについて意見がまとまらず、そもそも「いつ戻るべきか」という問い自体が定まらない状況が続いてきました。しかし時間の経過とともに、私たちはこの二者択一的な問いこそが誤っていたのだと気づき始めています。

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リモートワークと出社を組み合わせた働き方を指す 「ハイブリッドワーク」という言葉は、バズワードとして登場した後、広く定着した働き方となりました。そして現在、対面で働く際の身体的安全性への意識がこれまで以上に高まる中で、企業は今後のオフィス環境や雇用形態をどのように構築するかについて重要な判断を迫られています。

EYがポスト新型コロナウィルスのメンタルヘルス対策に関するレポートの中で示した興味深い、そして十分にあり得る予測があります。それは、これまで当たり前とされてきた「出社しての共同作業」は必須ではなく、目的を持って選択されるものになる、というものです。人々が共有のワークスペースに集まるのは、ネットワーキングやブレインストーミングのように、リモートでは効果が下がる活動やタスクに取り組むときになるでしょう。

前述の通り、社員同士の交流は、多様な立場の従業員にとって重要な要素であり、「誰とも会わずに済む働き方」が一般的になる可能性は低く、健康的とも言えません。重要なのは、対面で働く必要があるのは「いつ・どんな目的のときか」を明確にし、バランスを重視する姿勢を持つことです。

とはいえ、従業員の健康と安全は、定着率の向上と高いパフォーマンスを通じて、長期的な成功に欠かせない要素です。従業員のウェルビーイングに配慮し投資しなければ、生産性の高い人材を引き留められず、競合に後れを取ることになります。

より良い職場環境を実現するために

未来の働き方はどう変わるのか?

前のセクションで扱った「どこで働くのか」という問いを超えて、働く場所だけでなく、職場の“機能のあり方”も大きく進化しています。特に、従来のヒエラルキー構造を見直す動きが顕著です。専門家の間でもこの変化は注目されており、Gartnerによれば、人事部のリーダーが次に取り組むべき重要なステップは組織の複雑性を減らすことだとされています。その方法として、役割ではなくスキルに基づいて人材やリソースを柔軟に配置するアジャイルな業務モデルへの移行が挙げられます。こうしたアプローチにより、時代遅れの官僚的な仕組みを解体し、「最低限実行可能なプロダクト(MVP)」の考え方を仕事にも取り入れ、パンデミックを経た現代の従業員の働き方に合った、よりシンプルで効率的な業務モデルへと転換していくことができます。

人事部の卓越性によって実現される、俊敏で効率的かつ無駄のない職場づくりは、単なる夢物語ではありません。あらゆる企業が目指すべき、収益を生み出す実現可能な目標です。 McKinseyの職場に関するレポート「The new possible: How HR can help build the organization of the future」では、従業員の幸福と健康が、文化面でも財務面でも成功する企業の基盤であることが明確に示されています。

同レポートの著者らは次のように述べています。「企業文化は、卓越した財務成果を支える土台である。組織の健全性を測るMcKinseyのOrganizational Health Indexにおいて上位四分位に属する企業は、中央値の企業より 60%、下位四分位の企業より 200% 高い株主リターンを示している。

同レポートの後半では、人事部が従業員の体験向上を主導している組織を特定しながら、この点をさらに強調しています。従業員を主体的に活躍させる文化を育む企業は、組織目標を上回る成果を報告する可能性が1.3倍高いことが示されています。

これらの情報は、職場の構造や評価方法における文化的な転換が明確に進んでいることを示しています。この変革を導くのが人事であり、ここで挙げたテクノロジーや従業員中心のアプローチを適切に導入することで、企業は新たな働き方の常態(ニューノーマル)を受け入れる力があることを示すことができます。

人事の役割は、従業員情報の管理や福利厚生の細かな手続きといった表面的な業務だけだと捉えられがちです。しかし新型コロナウィルスの影響が示したように、人事部にはそれ以上の可能性があります。支援を必要とする人々のためのリソースとなり、人を前向きに導くプラットフォームとなり、組織をつなぐためのツールともなり得るのです。人事は「後回しにしてよい存在」ではありませんし、企業が長期的な成功を望むのであれば、もはやそのように扱うことはできません。

未来に強い、つながりのある組織文化を築くうえで鍵となるのが、人事部を中心としたテクノロジーです。働き方が大きく変化した現代において、従業員を支援する自動化やサービスは、欠かせない要素となっています。こうしたリソースを活用することで、チーム同士はよりスムーズに交流し、積極的に関わり合えるようになり、社内のプロセスや制度を確かな支援源として信頼できるようになります。そしてその支援を基盤に、より高い業務成果と、より大きな職務満足度を実現できるのです。

「つながりのある文化」とは、単にいくつかの障壁を取り除き、いくつかのテクノロジーを強化するだけの話ではありません。それは、組織の成功、そして最終的には従業員とビジネスの成功を育むための、全体的・包括的な取り組みを意味します。